JTの新たな挑戦、目標達成・習慣化アプリ「Habee」はどう生まれた? 開発プロジェクトの裏側に迫る
たばこ事業を中核に多角的に事業展開を進めてきた日本たばこ産業(JT)。そんな同社が目標達成・習慣化を支援するスマートフォンアプリ「Habee(ハビー)」をリリースしたのをご存じでしょうか。
主力の事業とは一風変わった新規サービスとして立ち上がった「Habee」。グッドパッチは本アプリの開発プロジェクトに参画し、1年以上にわたって伴走支援を続けています。
今回は、Habeeのプロジェクトオーナーである林さんと松永さんをはじめとするプロジェクトメンバーにインタビュー。サービスのコンセプトだけが決まっていたという状態から、Habeeがどのように形になっていったのかを紐解きつつ、新規サービスを共に進めるパートナー選びのポイントについても伺いました。
話し手:
日本たばこ産業株式会社 経営企画部(JT) 林さん
日本たばこ産業株式会社 経営企画部(JT) 松永さん
Goodpatch UIデザイナー 内山
Goodpatch UXデザイナー 片貝
Goodpatch デザインエンジニア 藤井
目次
JTがデジタルで仕掛ける新規サービス、目標達成・習慣化アプリ「Habee」とは?
——今回、グッドパッチが支援した新規サービス、「Habee」はどのようなサービスなのかを改めて簡単に教えてください。
JT 松永さん:
Habeeは、友達や家族、学校の友人や会社の同僚など、身近な人や同じ目標を持つ仲間と一緒にチームを組んで、楽しみながら目標達成や習慣化にチャレンジできるスマートフォンアプリです。
——JTがスマートフォンアプリ、というとイメージがわかない人も少なくないと思います。どのような背景で、このサービスは立ち上がったのでしょうか?
JT 松永さん:
私たちJTは、2023年2月に「心の豊かさを、もっと。」というグループパーパスを発表しました。「心の豊かさ」はこれまでもJTグループが商品を通じて提供してきた中核的な価値領域であり、お客様が製品やサービスを通じて、心の豊かさを感じる瞬間に寄り添い、ともにその瞬間を創り上げることをJTグループが目指す最大の価値領域だと考えています。また、変わり続ける社会や人々の価値観に合わせて、価値提供の手段は柔軟に変更していく必要があると考えています。
このパーパスの実現に向けた取り組みの一環として、お客様一人ひとりの心の豊かさにつながる体験をお届けすることを目指し、2024年9月にデジタルプラットフォーム「Momentia(モーメンティア)」を公開し、JTグループが展開する多様なデジタルサービスやオンラインストアを利用できる「Momentia ID」の提供と、Momentia IDで利用できるスマートフォンアプリをいくつかリリースしました。

日本たばこ産業株式会社(JT) 松永さん
——「習慣化」をテーマにしたのは、なぜなのでしょう。
JT 松永さん:
私たちが注目したのは、現代人の「余暇の過ごし方」です。総務省の調査によると、この20年間で日本人の余暇時間の総量は大きく変わっていません。しかし、交流やスポーツ、趣味、学習・自己啓発といった“積極的な余暇時間”は増加しておらず、「くつろぎ・休養」に充てられる時間が増えていることが分かりました。くつろぐこと自体は大切ですが、その中には「スマートフォンをなんとなく眺める」といった受動的な過ごし方も含まれていると考えています。
こうした“なんとなく過ぎていく消極的な余暇時間”を、前向きな行動の時間に変えることができたなら、日常の充実感や人生の豊かさにつながるのではないか。そのひとつのアプローチとして「習慣化」に着目しました。
スピード感が求められる新規サービスのパートナー、選定で重視した3つのポイント
——今回、Habeeを開発する上で外部のパートナーに支援を依頼しようと考えた理由を教えてください。
JT 松永さん:
アプリのコンセプトまでは固めていたものの、それを実際に形にする、開発するという点において、JT内にリソースやノウハウがあまりなかったというのが理由です。
——パートナーについては、グッドパッチ以外にも検討されたのでしょうか。
JT 松永さん:
そうですね。グッドパッチを含む4社に声をかけました。新規サービスの立ち上げにおいては、スピード感を持ってPDCAを回せる体制が組めることを重視していました。そのため、パートナーには「関係者全員が共通認識を持ちやすい体制であること」「同じ熱量で取り組めること」「コンセプト策定から開発まで一貫して依頼できること」の3つを重視しました。
これらの条件を満たしていたのがグッドパッチです。プロジェクトへの姿勢はもちろん、UI/UXデザインの実績が豊富で、さらに習慣化アプリの開発経験もあることから、お願いすることにしました。
JT 林さん:
グッドパッチの皆さんは、初回の提案から他社とは熱量が違いました。工数の見積もりだけでなく、ラフデザインまで含めた提案をしていただきました。また、デザイナーやエンジニアの方含め、関係者全員が提案の場に同席していたのも印象的でした。商談はオンラインでしたが、「チーム全体でバックアップする」という姿勢が画面越しでも伝わり、安心感がありましたね。

日本たばこ産業株式会社(JT) 林さん
——プロジェクト開始当初、グッドパッチに期待していたことを教えてください。
JT 松永さん:
プロジェクトとしては、コンセプトのブラッシュアップ、および体験設計やデザインへの接続をお願いするという形でした。プレリリースの時期も決まっていたので、開発の進行管理も必要な状況で。
個人的には、せっかく外部のパートナーにお願いするのだから、クオリティの高いものを目指したいと考えていました。そのためにも、グッドパッチ社内のナレッジをどう活用し、プロジェクトにどう反映してくれるかに期待していました。実際、開発においては多くのナレッジを生かしていただいたと思いますし、おかげでプロジェクトもスムーズに進み、安心感があったのを覚えています。
JT 林さん:
私自身、これまでのキャリアでアプリ開発は今回が初めてでした。頭の中には「こういうものを作りたい」というイメージはあったものの、それをどのように伝えればいいのかが難しく、プロダクトに落とし込む方法に課題を感じていました。そのサポートを期待していたところ、実際に議論を整理しながら形にしてもらえたのは、ありがたかったです。
——なるほど。ちなみにお二人とも、これまで新規サービスに携わった経験はあったんですか?
JT 林さん:
私はJTに入社してから、さまざまな部門を経験していますが、振り返るとキャリアの半分以上が新規サービス関連です。複数の消費財のEC事業やメディアサービスの立ち上げなどに10年ほど携わってきました。新サービスを立ち上げ、運営する難しさに直面した経験は人一倍多いのではないかと思っています(笑)。
JT 松永さん:
私はJTに新卒で入社してから、加熱式たばこのマーケティングや喫煙者向け会員プログラム「CLUB JT」の運営に携わっていました。林さんと異なり、新規サービスもアプリ開発も何もかもが初めてで、何の先入観もなかったのが、プラスにはたらいた場面もあったかもしれません。
事業の戦略からアプリのコンセプト、画面の構成まで全てを詰める 毎日「3時間以上」対話した期間も
——ここからはプロジェクトの具体的な内容について、お伺いできればと思います。2024年1月ごろから始まったとのことですが、どのように進めていきましたか?
Goodpatch 片貝:
まず、アプリのコンセプトのブラッシュアップに向け、JTさんが過去に実施したユーザー調査の分析から始めました。習慣化にまつわる課題や目指したい方向性を改めて確認し、どのようなユーザー体験や事業成長のステップが必要かを議論しました。
検討の結果、グッドパッチとしては「目指すべき事業成果を見据えた上で、ニッチな領域のユーザー課題を、競合がトレードオフせざるを得ない価値でしっかりと解き、そこからセグメントを広げていく方向性で考えるべき」と提案しました。

Goodpatch UXデザイナー 片貝
──トレードオフをせざるを得ない? 提案の理由をもう少し詳しく教えてください。
Goodpatch 片貝:
提案の理由は2つです。1つは、高い事業成果が求められる状況ではあるものの、始めから何でもできるアプリを作っても、誰にも使われないものができてしまうだけだと考えたこと。
もう1つは、ニッチから始める際、競合が大きいほど、後追いでマネをされるリスクがあるためです。一般的にサービスの提供価値が素晴らしいものであるほど、何かの要素を諦めているケースが多いです。競合の強みに対して、トレードオフになっているであろう価値で構造的にアプローチすることで、簡単にマネをされにくい、同質化しにくい構造をつくることを意識しました。
JT 林さん:
提案を受けて、「友達同士でゆるく楽しく習慣化を目指す」というサービスのコアとなる価値やコンセプトが固まりました。また、このときに「最初から大きな市場を狙うのではなく、まずはコアな体験を提供し、しっかりと基盤を固める」という方針も合わせて提案されています。
アプリのコンセプトや成長の方針など、あやふやだった部分をがっちりと固めていただいたことで、実装に向けた議論もスムーズになったと思います。
——コンセプトが決まった後、開発はどのように進めたのでしょう。
Goodpatch 片貝:
プロジェクトが始まってすぐに、開発までに行うことのプロジェクトプランニングを行い、それをスケジュール形式でマイルストーンに落とし込んでいます。基本的にはそれに則り、コンセプト策定後もUIの具体化や仕様の検討へと進んでいきました。
JT 林さん:
そうですね。その上で、1月末ごろUIを具体化していくにあたって、われわれはソフトウェア開発が初めてなので、何がどうなることで実際の画面や体験に落ちていくのか勝手が分からず片貝さんへ相談したところ、「何を解けば方針がクリアになるのか、そのために必要な論点を全部整理してきます」と言われました。
課題だけでなく、JT側が気付いていなかった視点まで整理された論点の一覧表を見たとき、大きな安心感が生まれました。これをクリアすればアプリは形になると思えたため、その実現に向けて集中できたんです。
Goodpatch 片貝:
何が決まればアプリが完成するのか、という点は私たちが専門家ですから。具体化することで見えてくる課題や検討ポイントも複数出てくるため、提示した論点も数多くありました。論点がそろってからはとにかくそれらをJTさんと二人三脚で次々に解決していくという感じでした。
JT 林さん:
2月の後半から4月頭くらいまでは、本当に毎日3時間以上会話していたと思います。大変だったけど、とても楽しかったです。文化祭のような青春を味わった気がします。
Goodpatch 片貝:
当時はUX側ではUIデザイナーに伴走しながら、その設計で体験として成立するかを相談し合ったり、ユーザーストーリーや仕様書の記載をしたり、UI側は実際の画面とコンポーネントなどを作りつつ、JTの皆さんにフィードバックをもらいながら、ひたすら試作と修正を繰り返していました。新しいサービスを作るわけですから、イメージを固めるためにもとにかく壁打ちが必要です。
JT 松永さん:
Figma上でも、常にコメントや議論のやり取りが動いていたのが印象的でした。会議がないときもプロジェクトが止まることはありませんでしたね。
Goodpatch 片貝:
新規サービスを立ち上げるときはプロジェクトメンバーの熱量がプロジェクトの速度に直結します。パートナーという立場ではありますが、われわれも「この世でこのプロダクトについて一番考えている人間は自分たちだ」と自負できるレベルまで突き詰めて考え、行動することを意識し、プロジェクトに臨んでいました。
機能を削る怖さにどう向き合うか 「MVP」を巡る議論で学んだこと
——ベータ版のリリースに向けて、苦労した点はありましたか?
Goodpatch 片貝:
MVP(Minimum Viable Product)を巡る議論は難航した記憶があります。サービスのコアとなる価値やコンセプトがユーザーにどう映るかを検証するために、余計なものを削り、必要最低限の機能でまずはリリースするというのが鉄則ではありますが、グッドパッチがいる間はより多くの機能を実装してほしいというご要望もよく分かるところではあり……。作ることは負債を抱えることとある種同義のため、そのバランスを取るのが難しかったですね。
プロジェクトを進める立場として、「必要最低限のプロダクトをそのままリリースするのは怖い」という不安はよく分かりますが、クライアントの要望を全て受け入れるのも適切ではありません。Yesと言うのは簡単ですが、取捨選択を誤ると事業がうまくいかなくなるリスクを生むからです。
「これはやるべきではない」とはっきり伝えることも、パートナーの重要な役割だと私は考えています。一方で、不安になる気持ちも本当によく分かるので、「それでいきましょう」と言っていただける状態を作るためのさまざまな努力は不可欠です。長期的に見れば、適切な判断が事業の成長につながると信じています。
JT 松永さん:
もともとハードウェアのプロダクトの仕事をしていたこともあり、「最高の状態で届ける」ことを前提に考えていました。そのため、当時は「理想形にもっと近づけたい」という思いが強く、機能を削る判断をするたびに寂しさや不安を感じていました。
ですが、リリースを経た今となっては、スコープを絞った判断は正しかったと思います。この経験を経たことでMVPの価値を理解し、機能選定をより冷静に行えるようになりました。

ユーザーの行動や目的に沿って機能を整理した「ユーザーストーリーマッピング」
——新規サービスの立ち上げを数多く経験されてきた林さんは、MVPについてどのように捉えていましたか?
JT 林さん:
これまで「作り込みすぎても、ダメなものはダメ」「検討や開発に時間をかけ過ぎて時期を逸した」ということを何度も経験してきました。検証の初期段階で機能を詰め込み過ぎてもローンチ後に柔軟に軌道修正しづらくなりますし、作り込みに時間をかけ過ぎて時期を逸してしまってはもったいないので、十分な状態でなくてもリリースして、まずお客様の反応を確認することに価値があると信じていました。
とはいえ、実際に開発を進めていると、少しでも良くしたいという気持ちが自然と出てきてしまうんですよね(笑)。MVPの考え方自体は理解していたので「今は削るべきフェーズなんだ」と意識しながら進めました。ベータ版のリリース予定まで猶予があまりなく、片貝さんが提案してくれた進め方にも納得感があったので。
Goodpatch 藤井:
エンジニアの方では、スケジュール上、間に合わなそうな部分はお伝えしつつ、細かいインタラクションなど、コアとなる価値ではないものの、アプリの使い心地に関わる部分は可能な範囲で作り込むようにしていました。
エンジニアはスケジュールの最終防衛ライン──遅延を極力防いでベータ版のリリースへ
——デザイナーに比べて、実装を担当するエンジニア側は、動き出しも含めて少し後から始まりますよね。どのようなスケジュールで進めたのでしょう。
Goodpatch 藤井:
アサインされて間もないころは、機能や仕様に関する議論に参加しながら、工数の見積もりやドキュメントの整理といった開発の準備をしつつ、コンポーネントベースでUIの実装を進めていました。あとは「Flutter(フラッター)」を使う準備ですね。
——Flutterですか?
Goodpatch 藤井:
今回のプロジェクトは、JTさんの要望でアプリ開発のフレームワークにFlutterを採用しています。iOSとAndroid、双方の開発に対応できるのがメリットなのですが、グッドパッチが手掛けるプロジェクトとしては初めての試みだったので、「グッドパッチがつくるFlutterアプリはどうあるべきか?」という点は意識しました。
デザインを理解しているエンジニアが開発に参加することで、より良い体験を提供できると考えているので。
——ベータ版のリリースまでは、あまり時間がなかったという話でしたよね。最後は開発に「しわ寄せ」が来そうなものですが、大丈夫だったのでしょうか。
Goodpatch 藤井:
今だから言えますが、デザイナー側の皆さんの議論が白熱していたので、間に合うかどうか密かにハラハラしていました(笑)。
デザインがFIXしてから開発を進める、というように順を追って進めるのでは間に合わないので、複数の工程を並行して進めつつ、後続の作業と調整を重ねながら進める必要がありました。アプリ側の実装はある程度調整できるのですが、今回バックエンドの実装については、JTを経由して他社に依頼する形だったため、スケジュール通りに進行できるか危機感は常にありましたね。
必要な情報を整理し、バックエンド側の開発に適宜リクエストを出しつつ、準備が整った段階でフロントエンド側も統合してアプリに組み込むという感じで。

Goodpatch デザインエンジニア 藤井
JT 林さん:
今思うと、自分たちも含めてみんなよくやったなと思います。当初の予定よりかは少し遅れましたが、9月上旬にベータ版を無事にリリースできました。
——プロジェクトとしては、一つの区切りを迎えたわけですね。
JT 松永さん:
ベータ版をリリースした瞬間はよく覚えています。アプリストアの審査を通過し、自動でストア公開になったのが夜中で、自宅のベッドでストアからダウンロードしたのですが、感慨深かったですね。テスト環境で何度も確認していたのですが、やはり実物を見るのとは違います。ただ、社外向けには「9月末に正式版をリリースする」としていたので、気は抜けない状況ではありましたが。
JT 林さん:
そうですね。一安心はしましたが、次に何をやるべきかを考え始めていました。リリースまでに後回しにしていたタスクがありましたし、松永にプロジェクトを完全に引き継ぐ予定もありまして。整理すべきことが山積みで、気が休まらない日々だった記憶があります。
Goodpatch 片貝:
私も林さんと同じで「次に何をしなければならないのか?」ということで頭がいっぱいだったせいか、正直、このころの記憶があまりありません(笑)。ベータ版のリリースはあくまで検証が目的なので「ここからが本当のスタートラインだ」という思いでした。
Goodpatch 藤井:
開発側としても、スピード優先で改善が後回しになっていた部分があったので、なるべく早く直していこうと考えていました。最後のデリバリーの部分を担っているので、尚更ですね。
ユーザーの声を聞き、世界観も含めてアップデート 今後は1人で楽しめるコンテンツも
——ベータ版のリリースは価値検証が目的、ということで、ここからは実際のアプリをユーザーに使ってもらいながら、反応を見て改善するという進み方になるのでしょうか。
JT 松永さん:
はい。とはいえ、まずはより多くの人に使ってもらわなくては検証も進まないので、モニター調査やイベントを通じてユーザーの声を集めながら、価値を感じてもらえるかを確認しました。「Habeeは20代の大学生~社会人にマッチするのでは?」と仮説を立て、若年層が多い企業や大学生のイベントなどで試験的に活用してもらいました。
——なるほど。友達付き合いが多いコミュニティの方が相性が良さそうですね。
JT 松永さん:
また、リリース後は毎月アップデートを実施しています。機能拡張についても「Habeeのコア価値とは何か?」を軸に、JTの事業やKPIにどう貢献するのかを整理し、開発の優先順位を決めています。
具体的には、事業指標からブレイクダウンしたKPIに加え、アプリのコア価値とそれが可視化されるアクションからKPIを導出し、最重要と考えられるKPIを定めました。その上で、KPIへの影響が大きく、かつ開発コストを抑えられる施策を優先的に開発しています。

Goodpatch UIデザイナー 内山
Goodpatch 内山:
合わせてビジュアル面のアップデートも行いました。新機能を追加するだけでなく、「Habeeらしさ」を維持しながら全体の体験を磨くことも重要です。今後の方向性を柔軟に見直せるよう、チーム全員が考えるHabeeらしさを機能改善に落とし込んでいきました。
——内山さんは、ベータ版リリースのタイミングでプロジェクトに参加されたわけですね。
Goodpatch 内山:
キャッチアップは大変ですが、途中参加だからこそ、プロダクトをフラットな視点で見ることができるというメリットもあります。1人のユーザーとして直感的に良いと感じるかどうか、という感覚を大切に議論に参加していました。
——ビジュアル面のアップデートというのは、具体的にどういったことを行ったのでしょう。
Goodpatch 内山:
一例ですが、アプリストアのページデザインのトーンと、アプリ内のデザインのトーンが異なるといった課題がありました。ストアからアプリをダウンロードして、いざ使い始めるとトーンの差に戸惑ってしまう。
「友達と一緒に使う」「若い世代がターゲット」といった観点で見ると、ユーザーの期待とデザインにズレが生じていたのです。この違和感が「使い始めたときに、何だかテンションが上がらない」といったユーザーの声につながっていました。デザインのトーンや世界観が全体の体験に影響を与える分かりやすい例だと思います。
——世界観がユーザーに与える影響って、大きいんですね。
Goodpatch 内山:
議論の中では「日本的な温かみがほしい」というような、抽象的なワードが出てくることもあります。感覚的な要素はJTさん、グッドパッチのメンバー間で、それぞれが思い浮かべる「Habeeらしさ」のニュアンスを擦り合わせながら、実際のプロダクトにどのように反映させるかを模索し、サービスの世界観へと落とし込んでいきました。

Habeeのデザインについて、いくつかの方向性を検討した時期もあった
JT 松永さん:
世界観については、内山さんに3つの方向性を提案していただき、改めてメンバーで議論したことでチーム全体でHabeeの世界観やデザインの方向性を擦り合わせられました。リリース後もサービスの世界観は議論の余地がある、というのは大きな学びでしたね。
——現在は、どういった改善に取り組まれているのでしょう。
JT 松永さん:
重点的に取り組んでいるのは、ひとりでアプリを始めたユーザーに対するフォローやオンボーディングですね。友達と一緒にアプリをダウンロードする方ばかりではないので、彼らが楽しんで使い始められるように体験を改善しています。
例えば「探す」機能を企画しており、同じ目標を持つ仲間をHabeeの中で見つけられる機能を進めています。あと、友達とのコミュニケーションの楽しさが、Habeeのコア価値のひとつになるので、よりコミュニケーションが活性化しやすく、日々の達成感を感じやすくするための改善も進めています。
新規サービス立ち上げの不安に立ち向かうために必要な「安心感」 パートナーに求められる要素とは?
——プロジェクトはまだ続いていますが、ここまでを振り返り、グッドパッチのメンバーにどのような印象を持っていますか?
JT 松永さん:
皆さん、とにかく積極的に提案をしてくれるという印象が強いですね。デザインや要件定義の過程でも、こちら側の意見を単に飲むのではなく、意図を汲み取りつつ、さらに価値を高める方向でアイデアを出してくれました。サービスへの強い思いや熱量が伝わってきましたね。
JT 林さん:
改めてグッドパッチの皆さんは「プロフェッショナルな集団だな」と実感しています。それぞれの専門領域で高いスキルを持ち、期待を超える提案や気付かなかった視点のアドバイスをしてくれる。必要なナレッジや経験をすべて社内でカバーするのは難しいので、非常に助かりました。
また、新規サービスを立ち上げる際は、方向性が揺らぐ場面も多いです。グッドパッチはデザインだけでなく、サービスの成長まで見据えた伴走支援をしてくれました。どんなパートナーと組むかは新規サービス・事業の成功を左右する大きな要素ですが、その意味でもグッドパッチは信頼できる会社だと自信を持って言えます。
——なるほど。思い返すとインタビュー中、お二人とも「安心感」という言葉を何回も使っていたように思います。
JT 林さん:
新規サービス・事業の立ち上げにおいては「なかなか前に進まない」「方向がずれている気がする」と不安を感じる場面が必ずあります。暗闇の中で金塊を探すような怖さというか。
そんな中で「この人たちと一緒なら大丈夫だ」という安心感が持てるかどうかは、非常に重要だと思っています。グッドパッチの皆さんは、どんなにあいまいな言葉でもていねいに議論を重ね、方向性を見出そうとしてくれました。信頼できるメンバーがいるからこそ、前に進む覚悟が生まれると感じています。
JT 松永さん:
グッドパッチの皆さんは、決めるべきことを適切に取捨選択した上で、的確な提案をしてくれました。その積み重ねが意思決定につながり、「ここまでしっかり決めてこられた」という実績が、安心感を生む要因になったと思います。
また、仕事の進め方も非常にていねいでした。「あ、すみません」というような仕事の抜け漏れが全然なかった。プロジェクト全体の流れを整理しながら、タスクの進捗も細かく可視化してくれる。こういった対応の細やかさも安心感がありました。
——グッドパッチの皆さんは、安心感という面で意識していたことはありますか?
Goodpatch 片貝:
UXデザイナーとして意思決定をサポートするために、できる限り不確実性を下げることを大切にしていました。最終的な決断はクライアントが下しますが、新規サービスのように不確実性が高いプロジェクトでは「本当にこの方向でいいのか?」という迷いが生じやすいものです。
「何が足りないのか分からず、決められない」という状況を避けるため、アンケートやユーザーリサーチなども活用し、意思決定の不確実性を下げる材料を整理していました。判断基準を構造化することで、選択肢が明確になるので、その点は意識していたように思います。
Goodpatch 内山:
ビジュアライズに強みを持つデザイナーとして、見えないものを可視化することを大切にしていました。人は、見えないものに対して不安を感じるものです。言葉だけのやり取りだけでは、チーム全員が思い浮かべているイメージがズレることもあります。そうした「見えそうで見えないもの」の手探り感をなくすために、指針を整理し、素早くビジュアルで示すことを意識しました。
Goodpatch 藤井:
エンジニアリングの面では、極力バグを出さないこと、そして最終スケジュールをしっかりコントロールすることですね。また、チームメンバーや関係者の情報共有や意思決定がスムーズに進むよう、ツールの管理や情報の整理を徹底する点も心がけていました。これも、クライアントが安心してプロジェクトを進められる環境として大切なことだと考えています。
——ありがとうございました。最後に「Habee」の今後の展望を教えてください。
JT 松永さん:
夢や目標を叶えるという「自己実現」は、人間の基本的な欲求のひとつと言われています。現在、Habeeは中高生から社会人まで幅広い世代に利用され始めていますが、1人でも多くの人にサービスを届け、みなさんの自己実現への一歩目を後押しし、目標達成への過程も含めて満足感や達成感を感じてもらえる瞬間や機会を広げていきたいです。
そのためにも、デザインの力を活用しながら、ユーザーの皆さんが、楽しみながら自然と継続できる仕組みを強化し、前向きな挑戦をサポートできる存在としてさらなる価値向上に励んでいきます。