「大通り」の改修から、全社横断の課題解決まで PdM×UIデザイナーで進めた「note」のグロースプロジェクト
クリエイターの創作活動を支援するメディアプラットフォーム「note」。会員数938万人、MAU(月間アクティブユーザー)は6500万以上という巨大プラットフォームは今も成長を続けており、コンテンツがドラマ化や書籍化につながるケースも増え、新たなクリエイター発掘の場としても注目されています。
完成されたサービス(プロダクト)にも見えるnoteですが、その裏側では、細かな機能改修やデザインの変更など、ビジネスとユーザー体験、双方を大切にしたさまざまなカイゼンが行われています。
今回、こうしたカイゼン活動にグッドパッチのPdM(プロダクトマネージャー)とデザイナーの2名がジョイン。WebとApp、双方のUI/UXに関わるグロース支援に取り組んできました。グッドパッチとnoteがどのような施策を行ってきたのか、プロジェクトを進めてきた2人とnoteで執行役員を務める重山弘之さんにインタビューで迫ります。
<話し手>
note株式会社 執行役員 開発グループ長 重山さん
Goodpatch プロダクトマネージャー 大本
Goodpatch ソフトウェアデザイナー 金谷
目次
経営陣含め、デザインを重視するカルチャーのnote グッドパッチに支援を依頼した理由とは?
──始めに、今回のプロジェクトの経緯やグッドパッチにお声がけいただいた理由を改めて教えていただけないでしょうか。
note 重山さん:
グッドパッチにお声がけしたのは、2023年の11月ごろだったと思います。事業拡大を目指す中でデザイナーのリソースを拡充する必要があった、というのがきっかけです。新機能の要望、サービスや既存機能のカイゼンなど、日々生まれるリクエストに対応するスピードが追いつかない状態でした。
社外のデザイナーの手を借りよう、となったときにCDOの宇野からグッドパッチを紹介していただいて。パートナー選出に当たって候補先はいくつかあったのですが、他社はデザイナーのみのアサインを提案する中、グッドパッチだけが「PdMとデザイナーの2名体制なら、開発スピードが上がります」というアサインの提案内容だったんです。もちろん、その分お値段も張るのですが(笑)、同じタイミングでPdMのリソース拡充も検討していたため、グッドパッチに依頼することに決めました。

note株式会社 執行役員 開発グループ長 重山さん
──カイゼンのリクエストがそんなにあったのですね。noteって完成されたプロダクトというイメージがあったので、少し意外でした。
note 重山さん:
ビジネスとして成長するために、より良くするべき点はまだまだあります。特に新規登録者やユーザーの回遊率、PVを高めるためにどんな施策をすべきかという議論は常にありますね。
noteではCDOの宇野、CXOの深津とデザインに知見のある役員が2人いることもあり、社内全体でデザインを重視するカルチャーがあります。他サービスとの差別化を図り、ユーザーの皆さんに長く使い続けていただくサービスになるには、機能的な価値はもちろんのこと、意味的価値を高めるというアプローチも重要です。課題をシステムで解決するだけでなく、UXから見直すという結論になることも少なくありません。そういう点でもデザイナーは大事な存在です。
──なるほど。デザインに対する投資は、大切にされているということなんですね。
note 重山さん:
グッドパッチはクライアント事例も豊富なので、他のプロジェクトではどうだったかなど、他社事例での実績や成果に基づいた提案を行っていただきました。組織が自走できるまでの橋渡しを行っていただけたという印象です。もし、デザイナーだけの契約だったらプロジェクトの難局を乗り越えられなかったので、PdMとデザイナーの2名体制でお願いした当時の判断は正しかったと認識しています。
ビジネスKPIの改善を目指してひたすらグロース施策を提案、でも「ほとんどNGが出なかった」
──グッドパッチが参画してからの、一連のプロジェクトの流れについて教えてください。
note 重山さん:
グッドパッチには、2024年1月からプロジェクトに参画していただきました。先ほどお話ししていたように、新規登録会員数の増加とPVの向上を目指し、さまざまな施策を動かしていただいていました。
Goodpatch 大本:
離脱率の削減や回遊率の向上といったテーマがあったので、とにかくユーザー体験という観点からさまざまな仮説を立てて、ABテストを行うという施策を繰り返していました。
重山さんからはデータのダッシュボードを渡されて、「新規会員登録数を増やすためなら、どの画面にアプローチしてもいい。いつ、何をするかも決めてOK」と進行を全面的に任せていただけました。重山さんをはじめとして、いろいろな方に施策やテストを提案したのですが、「いいですね、やってみましょう」という感じでNGが出ることがあまりなくて。ありがたいことなのですが、裁量の大きさに驚きました。

新規会員登録動線のカイゼンの様子
──すごいですね、度量が広いというか。責任が大きな物事をパートナー企業に任せるのは勇気が要るようにも思うのですが、どうだったのでしょうか。
note 重山さん:
社内でもパートナーでも「一緒に仕事をするメンバー」という点では同じですから、所属によって差をつける意味はないですよね。
仕事の任せ方についてですが、私は本人の能力や資質を図るには、目的を伝えて任せるのが一番良いと考えています。そこで生まれるコミュニケーションで、どれくらいパフォーマンスが発揮するのかも分かりますから。もし一から手取り足取り教えるような形であれば、パートナーとして一緒にプロジェクトを進めるのは難しいと思っていました。
Goodpatch 大本:
今思えば、確かにそういう形で進めていただいていました。継続いただけて本当に良かったです。
Goodpatch 金谷:
私はこのプロジェクトにアサインされたとき、「やることがいっぱいある!」とワクワクしていました。私自身もnoteのユーザーだったので、ブランド力を向上させるためにやりたいことや提案したいことがたくさんありました。
noteからするとややチャレンジングな提案も行ったのですが、デザイナー視点でユーザーの思考に沿った提案をするとすぐに実行に向けて動いてくださいましたよね。インハウスデザイナーのような感覚で動けたので、とても働きやすかったです。
note 重山さん:
私としては「お任せしたエリアはやってみて、ダメだったら元に戻せばいい」と考えていました。一度実装したら元に戻せないような施策には慎重になりますが、そうでなければ必要以上に検討に時間を使わず、PDCAを回した方が早いです。答えはマーケットが教えてくれるので。
KPIの改善から、部署横断で抱える課題の「カイゼン」へ 兼務もびっくり、プロジェクト中に配置転換
note 重山さん:
その後状況が少し変わって、夏ごろにnoteのスマートフォンAppの開発を進めるチーム(Appチーム)と、複数のプロダクトに影響を与えるカイゼン要望に対応するためにプロジェクトチームとして新設した「カイゼンタスクチーム」の2つに正式に所属してもらうことになりました。
──ミッションが大きく変わったということですか?
note 重山さん:
そうですね。特にカイゼンタスクの方は社内各所から要望が来ますし、ステークホルダーも多い難度が高い業務なので、一定のスキルがないとアサインはできないと考えていました。これまでの仕事ぶりやSlack上でのメンバーとのコミュニケーションを見ていて、グッドパッチにならお任せできると判断しました。
大本さんはコミュニケーションスキルが高く、どんなステークホルダーでもサッと懐に入ることができ、UXデザインの知見もある。金谷さんは指示されたことをやるだけではなく、「こちらの方がいいのでは?」と、デザイナーの立場からご自身のアイデアを提案できる。お二人なら大丈夫だろうと。
Goodpatch 大本:
カイゼンタスクとAppを兼務するというアサインには驚きました(笑)。noteは既にユーザーも多く、メディアとしての世界観も確立されていたので、最初は自分の役割が分からず「どこを直せばいいんだろう?」という状態でした。
ただ、当時のnoteは技術系のPdMがほとんどで、デザインの知識を持ったPdMがいませんでした。今後、noteがサービスの領域やビジネスの拡大を目指すならば、今以上にさまざまなユーザーが参加してくるので、多様なユーザーに対応できるような設計をしなければなりません。ユーザー体験をプロダクトに落とし込む際には、デザインの考え方が必ず求められるので「私たちの役割はここだ」と思いました。

ユーザー体験から各機能へ落とし込んでいく
──なるほど。配置転換が行われてからは、どのように取り組みを進めていったのでしょうか。
Goodpatch 大本:
カイゼンタスクについてですが、私の役割は、各所から出されるさまざまなリクエストを整理して開発目的を明確にした上で、開発の優先順位を付けることでした。
Notionに山積しているタスクの整理と状況確認から始めましたが、実施すると決めたリクエストでも要望通りの機能を作るだけでは成果につながらないと思える内容もあったので、UXやデザインの観点から内容を見直し、すぐに改善が見込める施策から着手していきました。施策によってPV、メール、CV(コンバージョン)など影響が出る箇所は異なるので、最初は何を重視すればよいかを理解することも大変でした。

Goodpatch プロダクトマネージャー 大本
note 重山さん:
技術系のバックグラウンドを持ったPdMは、機能からゴールを設計する傾向があります。私もエンジニア出身なのでHowから入りがちなのですが、デザイナー出身のPdMは、ユーザー体験から機能を設計してくれるところに強みがあると思っています。機能面とUXの二軸で設計できる体制になり、noteにとって良いバランスを取ることができました。
──Appチームの方では、何を行っていたのでしょう?
Goodpatch 大本:
カイゼンタスクは実装に時間を要するものが少なくないので、施策の交通整理をしていくうちに、エンジニアの手が追いつかなくなることもありまして……(笑)。そんなときは、Appチームの方で改善のスピードを高めるための施策やABテストに取り組みました。
App内で仮説検証や小さな実験を繰り返し、成果が出た施策をウェブサイトにも実装する……とPDCAを回せたので、とても効率の良いサイクルが回せたと思います。
note 重山さん:
Appチームはエンジニア中心の組織だったため、現場からもPdMやデザイナーを求める声は上がっていました。御社に入っていただければ、新しい体制へ移行できるのではないかと期待していました。
Goodpatch 大本:
note社内に、日常的にデザインについて会話する文化があったことも大きかったです。現場の事業部から「こうしたい」とデザインについての要望がたくさん上がってくることは、他社ではあまりないので新鮮でした。それぞれのメンバーが、デザインに対しての理想がある分、難しいところもありましたが、同じ目線で会話することができたので話が進みやすかったです。
Goodpatch 金谷:
Notionのリストには、やった方がいいと思えるリクエストはたくさんありましたが、思い切って優先順位を下げたものもあります。「なぜこの施策をやる必要があるのか?」と実施する意味を一つひとつ考えられたことは、良い経験になりました。あえて要望をスルーする度胸が身に付いた気がします。
note 重山さん:
カイゼンタスクチームを立ち上げた当初は、80件ほどの要望があったと記憶しています。毎月8~10件ほどのペースでタスクを解消していただきましたね。
効果がすぐ分かる「大通りの改修」と未来を見据えた「投資」、カイゼンのアプローチは両輪で
──具体的にどういった施策を進めたのか、教えてください。
Goodpatch 金谷:
現時点でリリースされたものは多くはないですが、今後実装予定の大規模な施策に多数関わらせていただきました。一例ですが、新規会員になってから2週間の間、ホーム画面に「はじめてのnote」というエリアを表示するようにしました。他にも細かいものでは、ホーム画面に表示されるサムネイル画像とタイトルとのスペース幅の検証、タイトル表示行数の検証、マガジンの表示方法変更などに取り組んでいます。
Goodpatch 大本:
Appについては、App内での記事回遊率を高めるため、ホーム画面上部に検索のテキストフィールドを常に表示させるようにしました。これまではユーザーが画面をスクロールすると検索バーが消えてしまう仕様だったので、他の記事に移りにくい構造だったのですが、検索バーからの記事遷移が増えました。
──ユーザーが一見気付かないような細かいものもありますが、それも結果が出たということなんですね。
Goodpatch 大本:
noteで最もPVを集める、つまりユーザーに見られているページは、コンテンツが掲載される画面とホーム画面です。この画面内にあるボタンのデザインを少し変えただけでもPVやクリック率が変わるのですが、いわゆる「大通り」のようなページに関わらせていただけたので、やりがいがありました。
またABテストでは、基本的なことをやり続ける大切さを改めて学びました。「面白い」「カッコイイ」デザインよりもシンプルなものが好まれる、ユーザーは左上から順にクリックしていくなど、基本に忠実な施策を進めると数字に表れてくるのは、興味深かったです。
Goodpatch 金谷:
ABテストをスピード感を持って進められる環境にあったのは印象に残っています。noteはとにかくユーザーが多いので、ABテストに必要なアクセス数(サンプル)がすぐにそろいますし、テストしたい画面を本番環境に反映するまでの仕組みが整っているなど、先進的だなと感じました。
Goodpatch ソフトウェアデザイナー 金谷
──ちなみにこうしたカイゼンを進めていく上で、苦労した点はありますか。
Goodpatch 大本:
一番大変だったのは「数値には表れないけれど必要」なカイゼン施策です。中でも、デザインコンポーネントの共通化やCVカラーの変更など、関連するページ数や影響範囲が大きな変更を加えるときは、ステークホルダーも多く一筋縄ではいかなかったです。

記事コンポーネント整理の様子
Goodpatch 金谷:
例えば、現在のnoteのロゴは黒文字ですが、以前使用していた緑と黒のロゴがサイトやAppのあちこちに残っていました。CVRなどに負の影響が出る可能性はあるものの、今後の展開を考えれば、世界観を守るためにもプライマリーカラーは統一する必要がある。「現在大きな問題が発生してはいないが、未来のためには今やっておいた方がいい」ことについては、理解してもらうために議論を重ねました。
カイゼンを進める中で、細かい機能の改修だけでは数字にインパクトがないことはデータからも読み取れました。でもプロダクト全体に関わるUXの改善には複数部署の協力が必要になります。各所を説得し、連携して進めていかなければならない点は苦労しました。
デザインに強いPdMと形にできるデザイナー、どちらが欠けてもうまく進まないと気付いた
──今回のプロジェクトを通して、グッドパッチのメンバーと働いた印象や学んだことがあったら教えていただけますか。
note 重山さん:
グッドパッチのお二人はこちらの意図を汲んでくれる提案が多く、「そうそう、それだよね」とこちらが言いたくなるようなアイデアを用意してくれました。筋道を立てるのはPdMの大本さんですが、金谷さんをはじめデザイナーの方々も意見をしっかり持っている。
もし異論が出れば、ディスカッションして実行に移すという一連の流れもスムーズで、KPIやミッションを任せて自律的に動いてくれるという点で非常に助かりました。そして最初にも話しましたが、やはり2人体制というのが良かったと思います。特にデザインに強いPdMの必要性を感じましたね。
──どういうことでしょう。
note 重山さん:
インフラのようなプラットフォームを目指すには、ユーザーにどれだけサービスを使ってもらえるかが重要になります。単に機能を作るだけではなく、どうすればnoteが生活の中にスムーズに溶け込めるかを考え、体験価値から機能を設計しなければなりません。
そして、一般的なPdMだけではなく、体験価値を形にするデザイナーが必要です。御社との取り組みの中でPdMとデザイナーが組み合わさるとパフォーマンスを最大限発揮できることに改めて気付かされました。改めてその点を認識できたことが、今回のプロジェクトでの大きな学びでした。
──グッドパッチのようなデザイン会社とプロジェクトを進めるメリットについて、どのようなところにあるとお考えでしょうか。
note 重山さん:
先ほどお話ししたように、所属によって大きく変わるとは思っていませんが、強いて言うならば、グッドパッチから客観的な第三者の立場での意見を言ってもらえることで、組織内にカイゼン施策の必要性を醸成できました。
noteの中で働く社員は、これまでの開発経緯もよく知っており社内事情にも精通しているので、知りすぎているからこそできない決断もあります。でも社内事情を重んじるだけでは、プロダクトの成長は止まってしまいます。社外の立場からユーザー体験を代弁して、素朴な疑問を提供してくれる存在がいたことはありがたかったですね。
──ありがとうございました!最後にnoteの今後の展望を教えてください。
note 重山さん:
現在も、グッドパッチのお二人に作ってもらった機能のリリースに向けて最終調整を行っている段階です。noteは、テキストを投稿できるプラットフォームというイメージが強いですが、ゆくゆくはメディアやサービスなど複数のプロダクトを展開し、さまざまなサービスが集まるプラットフォームになりたいと考えています。
noteではこれまでもクリエイターに直接課金する仕組みやサブスクリプションサービス、法人向けサービスなど、クリエイターが創作活動を続けやすくする仕組みを構築してきました。今後もクリエイターエコノミーを促進させ、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」エコシステムを提供し続けたいと考えています。