中小企業向けの基幹業務支援を行う「オービックビジネスコンサルタント(OBC)」。会計、人事、販売管理など広範囲の業務を支援する「奉行クラウドシリーズ」は、業種業態を問わず多くの企業に導入されています。
同社は2026年1月、デジタルコミュニケーションプラットフォーム『奉行LAND』の提供を開始しました。ユーザー・パートナー・OBC間の情報を一元化し、必要な情報へ円滑にアクセスできる環境を目指しています。
グッドパッチはこの奉行LANDの開発プロジェクトに参画し、UI/UXデザインの支援から始まり、ユーザー、パートナー、OBC向けの説明資料、ヘルプサイトの設計・制作まで幅広く支援を行いました。契約内容やプランも多く、複雑だった問い合わせ対応を、どのようにデジタルへと移行したのか。開発プロジェクトのメンバーに話を聞きました。
<話し手>
株式会社オービックビジネスコンサルタント 営業本部 営業推進部
カスタマーサクセス推進室 室長 平田さん
カスタマーサクセス推進室 総合企画グループ エキスパート 田畑さん
カスタマーサクセス推進室 総合企画グループ 課長代理 嶋尾さん
Goodpatch サービスデザイナー 長沼
Goodpatch プロデューサー 田原
目次
ユーザー、パートナー、OBCの連携をスムーズに 月数千件にのぼる問い合わせをクラウド上に集約する大規模プロジェクト
──本日はよろしくお願いします。まずは「奉行シリーズ」の概要と、「奉行LAND」の開発目的について教えてください。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
弊社が提供する「奉行シリーズ」は、主に中小企業を対象に、会計や給与、人事、販売などを支援する基幹業務システムです。パッケージソフトとともにSaaS型の「奉行クラウド」を展開しており、最近では、AIエージェントなども活用した業務自動化機能も備えています。
「奉行LAND」は、この奉行クラウドをより便利にご活用いただくためのデジタルコミュニケーションプラットフォームです。奉行クラウドは、弊社の販売代理店である全国のパートナーによって販売されており、サブスクリプション型のサービスということで、導入後もパートナーやお客さまとライセンス管理などのやり取りが発生します。弊社、パートナー、お客さまという三者のコミュニケーションを円滑にするために、奉行LANDの開発プロジェクトがスタートしました。

株式会社オービックビジネスコンサルタント 営業本部 営業推進部 カスタマーサクセス推進室 総合企画グループ エキスパート 田畑さん
──奉行LANDの構想は、いつから始まったのでしょうか。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
構想自体は3年ほど前から始まりました。2023年に既存ユーザー向けサポート統合サイト「奉行 Netサービス」のリニューアルが始まったのですが、当時からクラウド上にお客さまとのコミュニケーションの基盤を作りたいという考えはありました。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
当時のコミュニケーションツールは、メールと電話が主体でした。例えば、お客さまが契約プランの更新やライセンス変更などによる見積もりを取る場合、お客さまはパートナーに問い合わせることになるのですが、パートナーの皆さまも弊社に確認しなければ回答できないことが多く、結果的に、三者をまたいでのやり取りが発生していました。
──なるほど。SaaSサービスで回答までに時間がかかると、ユーザーの満足度にも影響しそうですね。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
BtoBビジネスはステークホルダーが多く、求められるプロセスや手続きも複雑です。一方でサービスを受ける際のコミュニケーションを敬遠される方も増えているため、変わらなければいけないと感じていました。
──今回、グッドパッチはプロジェクトに途中参画したと聞いていますが、お声掛けいただいたきっかけは何ですか。
オービックビジネスコンサルタント 嶋尾さん:
もともと奉行LANDでデザインの重要性を考えて検討していたのですが、実力を確認する意味で「奉行Netサービス」のリニューアルのUIデザインで協力していただいたという背景がありました。
Goodpatch 長沼:
私たちがアサインされたのは、すでに奉行LANDの要件定義が開始されている段階でした。ステークホルダーが非常に多い、大規模なプロジェクトですから、皆さんとうまく連携して進めていかなければと考えていました。
──プロジェクト開始当初のグッドパッチの印象や、期待していたことがあれば教えてください。
オービックビジネスコンサルタント 嶋尾さん:
グッドパッチは初回の打ち合わせからすぐに原案を準備してくれて、グラフィカルにモノが見られる安心感がありました。
奉行 NetサービスではUIをお願いしましたが、奉行LANDについては、私たちが提供したい価値を、どのようなサービスとして形にするかを具体化する必要がありました。また、ユーザーの皆さんに価値を感じていただくには、UX設計が重要だと考えており、グッドパッチの皆さんの力に期待していました。

株式会社オービックビジネスコンサルタント 営業本部 営業推進部 カスタマーサクセス推進室 総合企画グループ 課長代理 嶋尾さん
ユーザー体験を検討し、プロトタイプで議論する「デザインの価値」を知った
──実際のプロジェクトは、どのように進んでいったのでしょう。
Goodpatch 長沼:
グッドパッチがプロジェクトに入ったのは、奉行LANDの要件定義を進めているタイミングでして、仕様書を見ながら、デザインの観点でUI/UXレビューを行いました。実現したい顧客体験から逆算し、「この体験を実現するには、どんな画面の見せ方をするべきか」とOBCの皆さんにヒアリングをしながら画面提案を行いました。
その後はプロジェクト開始当初からスコープが広がり、プロダクトのUIデザインを担当したほか、プロダクトリリースに向けてのデリバリー関連対応として、ヘルプサイトの作成、ユーザーとパートナーに向けた奉行LANDの説明資料の作成、開発実装レビューなどを行いました。

──グッドパッチのこうした動きについては、OBCの皆さんはどう捉えていましたか?
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
グッドパッチは、画面設計やユーザー体験の設計が強みだと考えており、プロジェクト開始当初は、機能ベースの要件を具現化してもらうイメージで、グッドパッチに依頼していました。
しかし、グッドパッチの皆さんからは、操作の導線やボタンの配置など「ユーザーのことを考えたら、デザインはこうあるべき」という指摘を受けました。お客さま視点に立ち戻らせてもらい、一からイメージを検討し直すことになりました。
オービックビジネスコンサルタント 嶋尾さん:
メーカー側だけで検討すると、「それがお客さまから見て最適な設計か」という点を見落とす可能性もあります。グッドパッチの皆さんとの対話を通じて、お客さま視点で設計を見直すことができました。
また、最新のUIトレンドを教えていただけるのはありがたかったですし、「こんなデザインがふさわしいと思います。なぜならこういう体験が求められていて……」という形で、提案にも納得感がありました。
デザインへの投資規模は過去最大に──「専門家」の必要性を経営陣に説明
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
そもそも、今まで弊社では、外部に依頼するシステム開発やWebサービスの中に、デザイン費用は含まれている」という認識で、正直に話すと「デザインのために別途、費用を払うの?」という考えを持っていました。
ただ、奉行 Netサービスのプロジェクトで、成果物やアプローチを目にして初めて「サービスにデザインを取り入れるとは、こういうことなのか」と腑に落ちました。最適な仕様を考えることと、最適な画面を考えることは、決して同じことではない、ということを目の当たりにしたのです。

株式会社オービックビジネスコンサルタント 営業本部 営業推進部 カスタマーサクセス推進室 室長 平田さん
──なるほど。これまではシステム開発の中に、デザイン関連のタスクが組み込まれているのは当たり前という認識だったわけですね。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
はい、システム開発には、ユーザー考慮したUIやUXの設計は含まれているのが一般的だと考えています。しかし、今回の奉行LANDでは、「お客さまのためにデザインの専門家を入れないと、本当に良いサービスにはならない」と経営陣に説明しました。
ただ、デザインに対する発注で今回ほどの規模になるのは社内でも初めてだったので、価値を説明したり、稟議を通したりするのはなかなか苦労しました……(笑)。
Goodpatch 長沼:
皆さんの尽力があってこそのプロジェクトだったということがよく分かりました……。ちなみに役員の方々には、どのように説明されたのですか?
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
それこそ、Figmaの画面を一枚一枚スライドで見せて「ここが、こうなります」とビフォーアフター形式で説明していきました。環境構築の開発も含めると、合計3、4回くらい説明の機会があったと記憶しています。
リリース半年でユーザー利用率96%。契約内容の変更、価格シミュレーションなど、パートナーも業務負荷削減への期待感
──今回グッドパッチは、パートナーとユーザーが使用するインタフェースである「パートナーコクピット」と「ユーザーコクピット」を担当しました。それぞれの開発過程で、印象的だったエピソードはありますか?
オービックビジネスコンサルタント 嶋尾さん:
私はパートナーコクピット担当でした。奉行シリーズは製品ラインアップが多く、価格やプランもさまざまなパターンが存在するため、お客さまにとって最適なプランを即答することが難しい状況でした。
長沼さんに、お客さまやパートナーが理解しやすい形で奉行シリーズの情報を体系的に整理いただけたことがありがたかったです。問い合わせが多い要望に関しては、パートナーコクピット上でシミュレーションできるようにする、ここからはパートナーが弊社に確認しながら個別対応するといったラインを線引きし、複雑な情報体系をシンプルに整理していただきました。
従来は個別対応を中心とした運用で、内容によっては担当部門への確認が必要となるケースがありましたが、基本的な問い合わせをパートナーが対応できるようになったことで、お客さまをお待たせすることが減りました。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
私はユーザーコクピット担当でした。多くの顧客がいるが故にユーザーのペルソナを決め切れておらず、「あれもこれも必要」と欲張っていたのですが、グッドパッチの皆さんと議論をしていく過程でペルソナが明確になりました。機能追加・改修段階に入った現在も、そのときに作ったリストを基に改修を進めています。
Goodpatch 長沼:
画面設計では、どの部分にどの項目を配置するか、関係者の皆さんと話しながら設計しました。ユーザーがアクセスできる情報(見ている画面)とパートナーがアクセスできる情報は異なります。
ユーザーは、自分の見ているユーザーコクピットをもとに話をしますが、パートナーは、ユーザーコクピットより情報量が多いパートナーコクピットを見ながらお客さまに対応しなければいけません。ここで齟齬が生まれないようにする必要があります。ユーザーコクピットにどの情報が表示されていて、どの情報がパートナーコクピットだけに表示される情報なのか、パートナーが分かりやすい画面設計を行いました。

──ユーザーとパートナーのコミュニケーションも想像しながら、画面設計を考える必要があったということですね。
Goodpatch 長沼:
はい、ユーザーはこの画面で何を実現したいのか、どんなときにこの機能を使いたいのかなど、OBCの皆さんと連携して進めていきました。

Goodpatch サービスデザイナー 長沼
──奉行LAND ユーザーコクピットが2026年1月にリリースされましたが、ユーザーや社内からの反響はいかがですか。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
リリースから半年ほど経ちましたが、ユーザーコクピットを一度以上利用した企業は、96%に上ります。何十万社もいるお客さまにこれだけのスピードでアプローチできたことは大きいです。クレームなどのトラブルも想定より非常に少なく、「楽になった」といった声がほとんどですね。
オービックビジネスコンサルタント 嶋尾さん:
パートナーコクピットについても、多くの企業にお使いいただいており、メールや電話ではなく、奉行LANDを使った業務に完全に移管が完了したというケースも増えてきています。
パートナーを対象に実施したハンズオン勉強会では、「価格がすぐ分かる」「これまであった伝言ゲームがなくなりそう」など、奉行LANDに期待感を持たれる方が多いです。今までならメールや電話でやり取りしていた内容をクラウドに切り替えることで業務手順は大きく変わるので、まずはパートナーに変化を受け入れてもらえるよう、ていねいに進めていきたいですね。
プロジェクト終了後も社内に残る「デザイン思考」
──今回グッドパッチとプロジェクトを進めてみて、グッドパッチやデザインに対する印象が変わった部分はありますか?
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
そうですね。グッドパッチの皆さんは「この方向で開発を進めていいのか」ということをユーザー視点で確かめる「セカンドオピニオン」のような存在だったと思います。私たちを含め、社内にもデザインやUXという考え方があること自体を気付かせてもらいました。
プロジェクトの渦中は各社間での連携を取るのが精一杯でなかなか気付けなかったのですが、いなくなってから皆さんがいたことの価値を改めて実感しています。
これからは自分たちでデザインの観点を意識しながら、開発を進めていかなければいけません。グッドパッチの皆さんのようにうまく進められているわけではないですが、打ち合わせのスタイルなども少しずつではありますが、変わってきています。
──どのような変化があったのでしょう。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
CTCの皆さんに自分たちのイメージを伝える際に、まず自分たちが実現したい画面イメージをAIで作って説明するようになりましたね。
──議論の叩き台となるようなプロトタイプを自分たちで作っているということですか!それはすごいですね。
オービックビジネスコンサルタント 田畑さん:
他にも、例えば4つボタンがある中でユーザーに押してほしいボタンがあったとして、今までは機能主体で考えていたので、どのボタンも同じように並列配置する発想しかありませんでした。
でも今は、ボタンの色を変える、ボタン自体を大きくする、ボタンを上に配置するなど、ボタンを押してもらうためにいろいろな手法があるということを知り、ユーザーが動作しやすいことを軸に考えるという思考が身に付きました。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
そうですね。「目的を考えてUXベースで、UIを考える」という手順が身に付きました。今までは「デザインはシステムの一部」と思っていたので、ユーザー視点で開発することは当たり前だと思っていましたが、ユーザーの思考を体現するために必要なデザインのプロセスは決して簡単ではないことが分かりました。
Goodpatch 田原:
今のお話を伺えて、とてもうれしいです。僕はプロジェクトの終盤から関わらせていただいたのですが、デザインの価値を感じていただけたことはこれまで関わったチームメンバーの成果だと思いますし、グッドパッチにとっても学びが大きいプロジェクトだったと思います。

Goodpatch プロデューサー 田原
Goodpatch 長沼:
自分も同感で、「デザインの価値を証明する」というグッドパッチのミッションを達成できたのはうれしいです。OBCの皆さんは「サービスを良くするために、やるべきことをやる」という姿勢が一貫しており、自分も見習いたいと思いました。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
ある若手エンジニアの方は、「これからのAI時代では、システムがユーザーの意図を汲んであげなければいけない」と言っていました。プロジェクトを振り返ると初期はデザインの効用や価値に気付いていませんでしたが、グッドパッチの皆さんがプロジェクトを通じて残してくれたデザインにまつわる思考やロジックは、今も社内に根付いています。
──プロジェクト後も自走できるような支援は、グッドパッチが目指すところでもあります。ありがとうございました。最後に、奉行LANDの今後の展望についてお聞かせください。
オービックビジネスコンサルタント 平田さん:
奉行LANDは、弊社、パートナー、お客さまをつなぐプラットフォームです。指数関数的にビジネスを躍進させることが目的なので、ここから新しいサービスを提供し、さまざまなニーズを集めて、三位一体で新たな価値を生み出していきたいと思います。
基幹業務というのはAIの進化も相まって、新しい領域に拡張していく渦中だと思うので、数十万社の声を集積して、お客さまと一緒に成長していきたいです。
