こんにちは。グッドパッチでデザインストラテジスト兼ワークショップデザイナーとして活動している田中拓也です。組織デザインをテーマに連載をしていますが、今日お話しするトピックは「振り返り」のデザインです。

皆さんは、仕事やプロジェクトが一段落ついた後に振り返りをしていますか?

有名なのは「KPT」。「せっかくだしやろうか」と軽く声がかかり、Keep、Problem、Tryの順に付箋を貼っていく。「それって誰のせい?」「なんでこれKeepなの?」──最初はスムーズ進むけれど、段々と会話が止まりはじめ、あまり身のない反省会のようになってしまった……。

僕自身、そんな経験をしたことが何度もあります。チームの中で「振り返り」はいつも大切なステップとして置かれているのに、その中身が薄い、もしくは“やらされ感”に満ちていることが多い。

形式はある。でも、意味がない……? 今回はそんな「振り返り」を、きちんと意味のある時間に変える方法を考えてみたいと思います。

KPTは「対話」の入り口に過ぎない フレームワークに頼る前に「何を起こしたいか?」を考えよ

KPT(Keep/Problem/Try)は、振り返りのためのフレームワークです。以下の3つの視点から振り返ることで、現状を把握し、具体的な改善策を見つけ出す試みです。

  • Keep(続けること):うまくいったこと、今後も続けていきたいこと
  • Problem(問題点):うまくいかなかったこと、改善したい課題
  • Try(試すこと):Problemで挙げた課題に対して、次に試したい具体的な行動

KPTの説明

ただし、フレームワークというのは1つの「型」に過ぎず、これを行えば必ず改善策が見つけられるというものではありません。枠に沿って項目を埋めること自体が目的になってしまうと、振り返りは単なる作業と化してしまいます。

私は、KPTはあくまで「対話を始めるためのきっかけに過ぎない」くらいの認識で臨むのが大切だと考えています。

例えば、Problemに「コミュニケーション不足」と書いたとしましょう。そこで終わるのではなく、「なぜコミュニケーションが不足していたのか?」「具体的にどのような場面でコミュニケーション不足が問題になったのか?」「コミュニケーションを改善するために、私たちは何ができるのか?」といった「問い」を立て、チームで深く掘り下げていくことが大切です。

KPTでも、YWTでもGood&Moreでも。どんなフレームにも共通する前提があります。それは「そのチームに何を起こしたいか」が明確であること。プロジェクトを改善したいのか? チームの心理的安全性を高めたいのか? この目的があいまいなまま形式だけを真似ても意味がありません。

会議の設定と似た話になりますが、振り返りをデザインする上で最初にやるべきは、目的を明文化し、参加者と共有することなのです。

「体験」をベースにKPTを再設計 ワークの成否は進め方にかかっている

KPTのワークを進める際、大切なのは「対話」が生まれることです。決して枠を埋める、意見を出すだけで終わってはいけません。参加者間の対話を促し、振り返りを「意味のある体験」にできるかどうかは、ワークの進め方の設計にかかっています。

今回はKPTを少しアレンジし、「感情→意味付け→アクション」という3段階の構成を加える形でワークを再設計してみます。

Keep=「うれしかったこと」や「助けられたこと」から始める

まず、Keepしたい点を挙げるときは「何が良かったか」だけではなく、どんなシーンで心が動いたか、誰の行動が印象的だったかといった点も合わせて語ってもらいましょう。

例:「〇〇さんが〇〇してくれたとき、本当に救われた」

このように感情を伴ったKeepはチームの関係性を強め、感謝の空気を自然と生み出します。「なぜこれをKeepにしたのか?」を対話し、「どんなチームでありたいか?」という価値観と結びつけることで、Keepの要素をチームの「文化」へと昇華させることができるのです。

Problem=「批判」ではなく「問い」に変換する

Problemのパートで陥りがちな点として、個人への批判、攻撃になってしまうことが挙げられます。よくある失敗例は「〇〇がやらなかったから」という記述。これではワークの雰囲気も悪くなってしまいますし、何より意見が出なくなったり、問題から目を背けたりすることにつながってしまいます。

こういうときは問題点を「なぜ起きたのか?」「何が必要だったのか?」という問いに変換すると良いです。例えば「この情報共有が遅れた背景には、どんな要因があったのだろう?」というように。問いの形にすることで、批判ではなく仮説の共有が生まれやすくなります。

Try=「再現性」や「次の行動」を探る

最後にTryを考える際は、「次は何ができるか?」をチーム全体の視点で考えることが大切です。Keepの再現には何が必要か、Problemに対してどんなアクションを試すか……Tryを「自分ごと」にすることで、単なる反省会ではなく、未来の行動に変わります。

いかがでしょうか。KPTはあくまで一つのフレームワークにすぎず、万能ではありません。チームの状態やプロジェクトのフェーズに合わせて、以下のような振り返りの手法と組み合わせたり、KPTをアレンジしたりするのもいいでしょう。振り返りの幅が広がり、より多角的な視点からチームの内省を促すことができるのです。

・Good&More
プロジェクト期間中にあった「良かったこと」と「もっとこうだったら」を共有し、ポジティブな側面から振り返る手法

・YWT(Yatta/Wakatta/Tsugi)
「やったこと」「分かったこと」「次にやること」を明確にすることで、学びを具体的に次の行動につなげる手法

・FDL(Fun/Done/Learn)
プロジェクトを「楽しかったこと」「やったこと」「学んだこと」の3つの要素で振り返ることで、ポジティブな感情を共有し、学びを明確にする手法

「対話」がチームにもたらす力を知り、KPTの効果を最大化させるファシリテーションをしよう

KPTを始めとする振り返りのワークにおいて、重要なポイントとして挙げている「対話(dialogue)」ですが、その目的は単なる情報交換ではありません。多様な意見や視点が交わる対話は、メンバーの創造性を高め、新たなアイデアや発想を生み出す源泉となります。対話を通じて一人では思いつかないような、革新的な解決策が見つかる可能性が高まるのです。

また、対話にはチーム内の心理的安全性や一体感を醸成するという効果もあります。

対話を通じて、メンバー同士がお互いを尊重し、安心して発言できる関係性を築ければチームの心理的安全性は高まりますし、目標や価値観を共有すればチームに一体感が生まれるでしょう。いずれもメンバーの、ひいてはチームのパフォーマンスを最大化するために不可欠な要素です。

そのためにも、振り返りのワークには効果を最大化できるような「ファシリテーター」の役割が重要になります。ファシリテーションについては、前回の連載記事で解説しましたが、議論や対話を促進するナビゲーターのような役割を指します。具体的には、以下のようなアクションが一例です。

・参加者の発言を促す
発言しやすい雰囲気を作り、参加者全員が意見を述べられるように配慮します。発言が少ない参加者には、積極的に意見を求めることも大切です。

・意見を深掘りする
参加者の発言に対して、「なぜそう思うのか?」「具体的には?」「他に意見は?」など、さらに深く掘り下げる質問をすることで、より深い議論を促します。

・新たな視点を発見する
異なる意見や視点を組み合わせることで、新たな発見やアイデアを生み出すことができます。ファシリテーターは、さまざまな意見をつなぎ合わせ、新たな視点を提供することで、チームの創造性を引き出すことが求められます。

・感情的な意見への対応
感情的な意見が出た場合は、まずは共感を示し、受け止めることが大切です。その上で、感情的な側面と事実や論理的な側面を切り分け、建設的な対話につなげるように努めましょう。

振り返りを「チームをデザインする」機会と捉える

記事の冒頭でお話ししたように、振り返りは単なる反省会ではありません。振り返りを通して、チームの状態を把握し、課題を特定し、改善策を実行することで、チームをより良い方向に「デザイン」する力を持っています。

メンバー同士の相互理解を深める「関係性のデザイン」。価値観や行動規範を共有することで生まれる「文化のデザイン」。強みや弱みを認識し、継続的な改善を行う「成長のデザイン」──振り返りはチームをあるべき姿に近づけるための、強力なデザインツールとも言えます。

KPTを単なるフレームワークとして捉えるのではなく、チームをデザインする機会と捉え、対話の場として活用する。皆さんもぜひこの記事を参考に、チームの振り返りをデザインし、チームの可能性を最大限に引き出してみてください。

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